ひろゆき問題について

【わたしはひろゆき氏を非難できない】

 

いつも恥を露呈していながら、

さらに重ねて恥をさらすことをばお許しを。

 

昔わたしが漢方薬メーカーで働いていた時、

いわゆる街の個人薬局さんに取引契約終了のお願いをして回る

という仕事があった。

 

月初会議のたびに、

何年も取引のない薬局に書類を持っていって、

説明してハンコをもらって来いと言われた。

 

当時のわたしは何も考えていなかったので、

(※決してひろゆき氏が何も考えていないということではない)

言われるがままそれをした。

 

ある日、個人薬局のおばちゃんから

「○○(大手卸)はこういう小さな薬局でも最後まで絶対に見放しませんって言ったわ」

と言われた。

 

意味が分からなかった。

 

そうですか、とかなんとか言っていつも通りハンコをもらい、

書類は上司に提出したのだろう、正直よく覚えていない。

 

 

本当にそれが自分の仕事だと思っていた。

 

会社がやれと言うこと、

「それ」を何の疑いもなくやっていた。

「それ」が自分にとって当たり前のことだし、

「それ」が自分にとって正義だった。

 

自分勝手に思い込んだその正義を、

わたしはその時べらぼうに振り回して振りかざした。

 

「それ」が、わたしの生きる“満足”だった。

 

 

今になってわかる。

 

そのおばちゃんが、

四方をチェーンのドラッグストアに囲まれながら、

それでも個人薬局をやめなかったこと。

 

調剤を併設しない薬局運営が、

平成の時代にどんなに大変かということ。

 

それでも閉めない英断だったこと。

 

売れもしない漢方薬を、

一回の発注に一万円以上仕入れるなんて無理なこと。

 

とはいえCMが流れるような有名な商品を

自分のお店に置けない事実を

わたしはあの時おばちゃんに迫った、

その残酷さも。

 

今になって、ようやくわかる。

完全に極悪非道者ですよね。

 

今回のひろゆき氏とやってること同じなんですよ。

もちろん、その投稿に「いいね」した人もですけど。

 

彼の場合は辞書に正義を求め、それに合わないからゼロ。

座り込みって、24時間座ってることじゃないでしょう?

抗議行動の手段の一つですよね。

 

けどね、当時のわたしも、同じことです。

会社に正義を求め、それに合わないからゼロ。

 

 

会社から言われたからやるってことと、

おばちゃんが自分の人生の大半を捧げた薬局との取引を終わりにすること、

 

どちらが重いか真面目に真剣に考えたら、

ちょっとでも手が止まるはずなのに、

わたしはそんな時間を1秒も持たなかった。

 

ただ、会社の言う正義を振りかざした挙句、

上司に褒められて、給料をもらい自分だけ満足していた。

 

 

―――

こんな極悪非道のわたしが、確かにいました。

正面切って闊歩してました。

肩で風切って歩いてました。

ヒールカツカツ、シャキッとスーツ決めて、

誰かなんか文句あんのかって感じで。

 

今思えば文句どころか、

呆れて諦めて誰も近づきませんよ。

あー、恥ずかし・・・

 

 

 

さて、ネットを騒がすひろゆき問題に乗じて、

なぜこんなことを書こうかと思ったのかというと、

 

すれ違ったカップルの「採用というか、HR系なんだよね」

という会話が聞こえたからです。

 

HR(エイチアール)って、

そんなメジャーな言葉になったんだなと思って、

空を見上げました。

 

 

ご存知の通り、HRとはHuman Resourcesの略。

人的資源という訳がつけられています。

 

人的資源なんて、誰が言い出したんだろう?

資源じゃないよ、人は。

 

 

野中郁次郎先生も言ってます、

人は資源を生み出す存在で、人は資源ではない、と。

 

 

人が資源となれば、

それは数えられるものと同じになってしまう。

 

そうなれば、交換や代用が可能ということになる。

 

 

人は数えられる存在ではない。

命は量で語れない。

 

あなたの、わたしの、誰かの大切な人は、

決して「1」で片付けられるような存在ではない。

 

 

それは、家族でも、企業組織でも同じ。

 

 

わたしは企業組織という存在を否定しない。

しかしそれは人のためにあるのであって、

それのために人があるようなこの現代は、やっぱり、

わたしにはどうしても馴染むことができない。

 

 

極悪非道だったわたしが今更こんなこと、

言えた義理じゃないですが、

せめてあの日の、あのおばちゃんへのつぐないに、

許されるはずはないのだけれど、

 

誰かが大切にしていることを、

わたしもちゃんと大切にしたい。

 

そうできる日々を、自らの努力で、

ちゃんと築いていこうと思います。